Last Updated on 2025年2月4日 by 渋田貴正
株式を売買する際、時価よりも高い価格で取引をすると、税務上の取り扱いが複雑になります。特に個人と法人の間で株式を売買する場合、思わぬ税負担が発生することがあります。今回は、「時価よりも高い価格で株式を譲渡した場合」に生じる税務上の影響をまとめました。
個人間での高額譲渡
個人同士で株式を売買する際、時価よりも高い価格で売却した場合、その「差額」は売り手(譲渡者)に対する金銭的な贈与と見なされる可能性があります。
つまり、売り手は単に株を高く売ったのではなく、「贈与を受けた」と判断されるため、その差額に対して贈与税が課されることになります。
一方で、買い手(譲受者)には課税関係は生じません。
例えば、時価100万円の株式を150万円で売った場合、その差額50万円は売り手の「贈与所得」として課税対象になる可能性があります。譲渡者(売り手)は、本来であれば時価相当の100万円しか受け取れないはずが、150万円を手にすることになります。したがって、差額の50万円は単なる売買代金ではなく、売買のタイミングで買い手から売り手に対して贈与が行われたとみなされ、贈与税の対象となる可能性があります。
個人から法人への高額譲渡
個人が法人に対して時価よりも高い価格で株式を売却すると、その差額部分が単なる譲渡益ではなく、「給与」「賞与」「退職金」または「一時所得」として課税される可能性があります。
法人側では、その差額部分は「給与」や「寄附金」として扱われ、損金(経費)に算入できるかどうかが問題となります。
役員や従業員への高額譲渡代金の支払いであれば給与や賞与ですし。第三者への高額譲渡代金の支払いであれば第三者の一時所得となります。個人の譲渡者(売り手)は、本来であれば時価相当の100万円しか得られないところ、法人から150万円を受け取ることになります。この差額の50万円は、単なる売買代金ではなく、法人が個人に対して給与や退職金などの経済的利益を与えたとみなされます。
例えば、時価200万円の株式を法人に300万円で売却した場合、差額の100万円が売り手(役員や従業員)個人にとって「給与」とみなされると、所得税や社会保険料の負担が発生する可能性があります。また、役員については定期同額給与や事前確定届出給与の枠外にある報酬として損金算入できるかどうかの問題も発生します。
法人から個人への高額譲渡
法人が個人に対して時価よりも高い価格で株式を売却した場合、その経済的な実態として、「個人から法人への金銭贈与」とみなされることがあります。
売り手である法人は、その差額を「受贈益」として法人税の課税対象となります。
また、同族会社(株主が親族などで構成される会社)の場合は、さらに「株主への贈与」とみなされる可能性があるため注意が必要です。
例えば、時価500万円の株を法人から600万円で購入した場合、その差額100万円が法人の「受贈益」として扱われ、課税対象となります。法人の譲渡者(売り手)は、本来であれば時価相当の100万円しか得られないはずが、個人の買い手から150万円を受け取ることになります。この差額の50万円は、単なる売買代金ではなく、経済的な実態として個人から法人への贈与とみなされ、法人の受贈益(譲渡益)として課税対象となるということです。
法人間での高額譲渡
法人同士で時価よりも高い価格で株式を譲渡した場合、譲受法人において、その差額は「寄附金」とみなされる可能性があります。
この場合、寄附金として扱われると、損金(経費)にできる額が制限され、税務上の負担が大きくなります。
特に、完全支配関係(親会社と子会社の関係など)がある法人間の場合、差額部分の損金算入が認められないこともあります。
例えば、ある会社が時価1000万円の株式をグループ会社に1500万円で売却した場合、500万円の差額が寄附金とみなされ、損金にできないケースがあります。譲渡者である法人は、本来であれば時価相当の100万円しか受け取れないところ、譲受法人から150万円を受け取ることになります。この差額の50万円は、単なる売買代金ではなく、売買のタイミングで譲受法人から譲渡法人へ行われた寄附とみなされる可能性があり、譲受法人では損金不算入となるリスクがあります。
時価よりも高い金額での株式の売買はリスクだらけ
まとめると以下のようになります。
個人(売り手) | 法人(売り手) | |
個人(買い手) | 譲渡者(売り手の個人): ・売却益が発生すれば譲渡所得税が課税(一般的なケース) ・時価より高額な場合、超過額が贈与とみなされ贈与税の可能性あり |
譲渡者(売り手の法人): ・時価を超える部分も法人の受贈益(譲渡益)として課税 ・同族会社の場合、個人株主への贈与とみなされる可能性あり |
譲受者(買い手の個人): ・課税関係なし(贈与税の負担なし) |
譲受者(買い手の個人): ・課税関係なし(贈与税の負担なし) |
|
法人(買い手) | 譲渡者(売り手の個人): ・売却益が発生すれば譲渡所得税が課税(一般的なケース) ・時価を超える部分が給与・賞与・退職金または一時所得として総合課税される可能性あり |
譲渡者(売り手の法人): ・売却益は法人の課税所得(受贈益)として計上される ・完全支配関係がある場合は受贈益課税なし |
譲受者(買い手の法人): ・時価との差額が給与・寄附金として処理される ・寄附金と認定されると損金算入不可(法人税負担が増加) |
買い手(譲受者の法人): 時価を超える部分が寄附金とされ、損金不算入となるリスク。 |
1. 個人 → 個人(個人同士の譲渡)
- 売り手(譲渡者):通常は譲渡所得課税。時価を超えた場合、贈与税のリスク。
- 買い手(譲受者):特に課税なし。
2. 個人 → 法人(個人が法人に売却)
- 売り手(譲渡者):時価を超える部分が給与や退職金扱いになり、所得税や社会保険料の対象になるリスク。
- 買い手(譲受者):時価との差額が給与や寄附金と認定される可能性があり、損金不算入のリスクがある。
3. 法人 → 個人(法人が個人に売却)
4. 法人 → 法人(法人間の売買)
- 売り手(譲渡者):売却益として法人税課税(ただし完全支配関係がある場合は受贈益課税なし)。
- 買い手(譲受者):時価を超える部分が寄附金とされ、損金不算入となるリスク。
これまで書いてきたように、時価よりも高い価格での株式譲渡は税務リスクだらけです。時価を大きく上回る価格で株式を売買すると、贈与税・所得税・法人税などの課税リスクが発生します。
特に法人と個人間の取引では、「経済的利益」「寄附金」「給与所得」など、税務上の認定が複雑になるため、慎重に検討する必要があります。
現実的には、株式を譲渡する場合には「時価で行う」というのがセオリーです。上場会社であれば、マーケットの金額がそのまま時価になり、その金額で売買するのが通常ですが、特に非上場株式については慎重に時価を算定して、その金額での売買を行うようにすることが税務リスクの回避のためには重要です。
司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。