Last Updated on 2025年1月29日 by 渋田貴正

管理清算主義とは?

国際相続を理解する上で重要な概念の一つが「管理清算主義」です。この制度は、被相続人が亡くなった後の財産の分配方法の一つです。管理清算主義が採用されている国では、被相続人の財産は、死亡と同時に相続人や受遺者に直接移転するのではなく、まず「遺産財団(estate)」という形で一時的に集約されます。この遺産財団は裁判所の管理下に置かれ、清算手続きが行われます。

管理清算主義での相続の具体的な流れ

アメリカを例にとると、以下の手続きが一般的です。

  1. 裁判所による管理開始 被相続人が亡くなると、裁判所が「人格代表者(personal representative)」を正式に任命します。この代表者は、日本でいう遺産管理人のような役割を果たします。
  2. 管理・清算手続き 人格代表者は裁判所の監督の下で以下を行います。
    • 遺言書がある場合、その有効性を確認
    • 相続人や受遺者の特定
    • 被相続人の債務や費用の支払い
    • 遺産税の申告および納付
  3. 最終的な分配 清算が完了し、プラスの財産が残った場合、裁判所の許可を得て、相続人や受遺者に財産が分配されます。この過程は「プロベート(probate)」と呼ばれます。
管理清算主義の特徴

この制度の根底には、相続を身分法の一部ではなく、売買や贈与と同じように物権や債権の移転方法の一部として捉える考え方があります。

例えとしては適切ではないかもしれませんが、イメージとしては、破産者の財産が一旦「破産財団」に似た形で集約されると考えるとわかりやすいでしょう。このため、財産が管理・清算された後で余剰財産が残らない限り、相続人に分配されることはありません。この仕組みのため、相続放棄限定承認といった概念は基本的に不要とされています。

管理清算主義が採用されている国

管理清算主義は主にアメリカやイギリスなどの英米法系諸国で採用されています。特にアメリカのプロベート手続きは、「検認」と翻訳されることもありますが、日本の遺言書の検認手続きとは大きく異なります。

日本では、検認手続きは主に遺言書の証拠保全を目的としています。一方、アメリカのプロベートは財産の管理や清算、そして最終的な分配まで含む包括的な手続きです。そのため、日本の検認と混同しないよう注意が必要です。

例えば、アメリカの金融機関では、相続手続きの際にプロベート裁判所が発行する書類の提出を求められることが少なくありません。もしアメリカにプロベートの対象となる財産がない場合、日本の弁護士が意見書を作成することがあります。この意見書では、日本にはプロベート制度がなく、被相続人の権利義務が死亡と同時に相続人に直接承継されることを説明します。

国際相続では、各国の制度の違いを理解することが非常に重要です。管理清算主義の仕組みを知ることで、遺産分配の流れや実務上の注意点を正しく把握できます。特に、海外に資産を持つ場合や英米法系の国に相続人がいる場合には、この制度についての理解が役立つでしょう。

管理清算主義は、一見すると複雑に思えるかもしれません。しかし、その仕組みを正しく理解すれば、国際相続におけるトラブルや誤解を未然に防ぐことができます。