Last Updated on 2025年2月9日 by 渋田貴正

海外に財産を持っている場合や、海外在住の方が相続をする場合、日本の相続税制度がどのように適用されるか気になるところです。

所得税であれば、非居住者の場合にはほとんどの所得控除が適用できません。(雑損控除、寄付金控除、基礎控除のみ適用可能)同様に、日本の相続税には「国際相続の場合に適用されない控除」がいくつか存在します。知らないと適用できるはずの控除を見逃してしまう可能性もあるため、しっかりと確認しておきましょう。

納税義務者の属性による控除の違い

日本の相続税は、相続人(受け取る側)や被相続人(亡くなった方)の居住地・国籍によって適用範囲が異なります。特に、以下のような控除が国際相続では適用されないケースがあります。

未成年者控除が適用されない場合

相続人が未成年であっても、以下の納税義務者の場合は「未成年者控除」が適用されません。

  • 居住制限納税義務者(日本に居住していないが、一部日本の課税対象となる人)
  • 非居住制限納税義務者(日本非居住者で、相続税の対象となる財産が日本国内にある人)

② 障害者控除が適用されない場合

障害者控除も、以下の納税義務者には適用されません。

  • 非居住無制限納税義務者(海外居住者で、日本に広範な課税義務がある人)
  • 居住制限納税義務者
  • 非居住制限納税義務者

③ 外国税額控除が適用されない場合

二重課税を防ぐための「外国税額控除」も、居住制限納税義務者や非居住制限納税義務者には適用されません。
理由は、これらの納税義務者には、そもそも国外財産に対して日本の相続税が課税されないためです。

以下の表に、納税義務者ごとの控除の適用可否をまとめました。

控除項目 居住無制限納税義務者 非居住無制限納税義務者 居住制限納税義務者 非居住制限納税義務者
未成年者控除 × × ×
障害者控除 × × ×
外国税額控除 × ×
居住制限納税義務者、非居住制限納税義務者については、国外財産に日本で相続税がかぜいされないため、そもそも外国税額控除の問題が生じません。
海外の不動産でも「小規模宅地の特例」は適用可能

意外に思われるかもしれませんが、相続税の負担を軽減する「小規模宅地等の特例」は、国外にある不動産にも適用されます。
この特例は、一定の要件を満たすことで、相続した土地の評価額を最大80%減額できる制度です。海外の不動産であっても、相続税の課税対象となる場合には、この特例の適用を受けることができます。
ただし、要件を満たさない場合は適用できないため、事前に確認が必要です。

国外財産の物納はできない

日本では、相続税の支払い方法として「物納(財産をそのまま納める方法)」が認められています。しかし、国外財産を物納することは認められていません。
その理由は、日本政府が海外の不動産や資産を取得しても、換金や管理が難しいためです。
したがって、海外資産を相続した場合、現金で納税する準備をしておく必要があります。