Last Updated on 2025年2月18日 by 渋田貴正
不動産を含む遺産が残された場合、相続人同士でどのように分けるかが重要な問題となります。特に、賃貸物件がある場合、その賃料収入が遺産分割前に発生していた場合に、誰がその賃料を受け取る権利があるのかを理解したうえで遺産分割協議を行うことが重要です。
最高裁の判例によれば遺産分割前に発生した賃料債権は相続財産そのものではなく、各相続人の相続分に応じて分割される相続人間の債権であると判断されています。(平成17年9月8日判決)これは、相続人が複数いる場合、相続開始から遺産分割までの間は遺産が共同相続人の共有財産となるため、その間に発生した賃料債権は、遺産とは別の財産と考えられるからです。
また、遺産の共有関係において生じた賃料債権は、個々の相続人がその持ち分に応じて取得するべきものであり、特定の相続人が単独で取得するものではないという共有の規定があります。これにより、賃料債権は相続人全員に分割される単独債権となります。
つまり、賃料は不動産の所有の結果発生する「果実」ですが、相続財産である不動産から発生したものとはいえ、相続財産とは切り離され、相続人全員に公平に分配されるべき財産となるのです。
もちろん、その後の遺産分割協議において、遺産分割前に発生した賃料債権も含めて、不動産を取得した相続人に帰属する旨を決定すること自体は問題ありません。
被相続人の口座に遺産分割前の賃料が振り込まれた場合の扱い
では、遺産分割前の賃料が被相続人の銀行口座に振り込まれていた場合、その賃料はどのように取り扱われるのでしょうか?
銀行口座の残高は遺産分割の対象となるため、口座に振り込まれた賃料は預金債権となり、遺産分割の対象となります。つまり、相続人が遺産分割協議を行い、誰がどの遺産を取得するかを決めるまでの間、被相続人名義の口座に振り込まれた賃料収入は、そのまま相続財産として扱われることになります。
ただし、実際の銀行実務においては、預金の払い戻しに際して相続人全員の同意を求められるケースが多いとされています。これは、金融機関が各相続人の相続分を正確に把握することが難しく、法的トラブルを避けるためです。そのため、預金の払い戻しには相続人全員の署名や捺印が求められることが一般的です。このような実務上の制約により、相続人が単独で賃料を引き出すことは難しく、事実上、遺産分割協議を経たうえで処理されるケースがほとんどです。
【まとめ:賃料債権の帰属についてのポイント】
状況 | 賃料債権の帰属 |
遺産分割前に発生した賃料債権 | 各相続人の相続分に応じて分割される(単独債権) |
被相続人の銀行口座に振り込まれた場合 | 預金債権となり、遺産分割の対象となる |
遺産分割後に発生した賃料 | 賃貸不動産を取得した相続人の固有財産 |
このように、賃貸不動産そのものを相続することになったとしても、遺産分割前に発生した賃料をすべて取得できるわけではない ことに注意が必要です。
相続において、遺産分割前に発生した賃料収入が誰に帰属するのかは、多くの相続人が直面する問題です。遺産分割前の賃料は相続人全員に分配される単独債権であり、たとえ賃貸不動産を取得したとしても、その賃料は取得者のものにはなりません。 さらに、賃料が被相続人の銀行口座に振り込まれていた場合、遺産分割の対象となる可能性があるため、慎重な取り扱いが求められます。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。