Last Updated on 2025年2月23日 by 渋田貴正

近年、国際的な相続が増え、日本で相続手続きを行う際の外国に、選任された遺言執行者(Executor)がどの程度権限を行使できるのかについての問い合わせも多くなりました。特にアメリカなどのプロベート裁判所(遺言検認裁判所)で選ばれた遺言執行者が、日本でどのように扱われるのかは多くの相続人様が疑問に思うポイントです。外国の裁判所で選ばれた遺言執行者の日本における権限について、法律の仕組みや実際の運用を解説します。

外国で選任された遺言執行者の権限

外国の裁判所で選任された遺言執行者の権限は日本で認められるのか?

外国の裁判所で選ばれた遺言執行者が日本で権限を行使できるかどうかは、以下の2つのケースに分かれます。

  1. 遺言執行者の選任に裁判所が関与しない場合
  2. 外国の裁判所で正式に選任された場合

それぞれのケースについて解説します。

外国の裁判所が関与せずに選任された遺言執行者の権限

遺言執行者の就任に裁判所が関与しない場合、遺言執行者の就任については私人の行為とされます。これは日本国内でも海外で作成された遺言に基づいて選任された遺言執行者でも同じ話です。この場合、以下の要件を満たせば、日本でも遺言執行者の選任は効力を持つことになります。

  • 遺言の内容が適用される準拠法に基づいていること
  • 遺言者の本国法(通常は国籍国の法律)が適用されること
  • 遺言執行者の選任が法的に適切であること

上記に基づいて選任された遺言執行者については、日本の民法で選任された遺言執行者と同等の権限を持ちます。

外国の裁判所で選任された遺言執行者の場合

外国の裁判所で遺言執行者が選任された場合、日本では「外国判決の承認」の問題が関わってきます。日本では、民事訴訟法118条の規定に基づき、以下の条件を満たす外国判決を承認します。

(外国裁判所の家事事件についての確定した裁判の効力)
家事事件手続法 第79条22 
外国裁判所の家事事件についての確定した裁判(これに準ずる公的機関の判断を含む。)については、その性質に反しない限り、民事訴訟法第108条の規定を準用する。(外国裁判所の確定判決の効力)
民事訴訟法 第118条
外国裁判所の確定判決は、次に掲げる要件のすべてを具備する場合に限り、その効力を有する。

一 法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること。
二 敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達(公示送達その他これに類する送達を除く。)を受けたこと又はこれを受けなかったが応訴したこと。
三 判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと。
四 相互の保証があること。

まとめると、外国の裁判所で選任された遺言執行者については、以下の要件を満たすことでその権限が日本でも認められます。

条件 内容
① 確定判決 外国裁判所で確定した判決であること
② 裁判管轄 外国裁判所に裁判管轄があること
③ 正当な手続き 被告が適切な通知を受け、公正な手続きが行われたこと
④ 公序良俗 日本の公の秩序に反しないこと
⑤ 相互保証 日本と外国間で判決承認の相互保証があること

これらの要件を満たせば、日本の裁判所で改めて遺言執行者として選任される必要はありません。

外国で選任された遺言執行者の日本における具体的な扱い

2003年12月19日、東京地方裁判所は、アメリカ・カリフォルニア州で遺言執行者に選任された人物が、日本の家庭裁判所に遺言執行者としての選任を求めたケースについて判断しました。

この事案では、カリフォルニア州で遺言書の原本が紛失していたにもかかわらず、遺言の検認が行われ、アメリカにて遺言執行者が選任されました。日本の家庭裁判所は、「外国判決の承認」によって上記の要件を満たしており、既に日本でも遺言執行者としての権限があるため、新たに日本側で遺言執行者を選任する必要がないと判断しました。

結果として、この遺言執行者は日本国内の銀行に対して、故人の口座の預金を払戻す権限を持つことが認められました。

一方で、例えばフランスに住んでいた被相続人について、ニューヨーク州のプロベート裁判所で遺言執行者が選任された場合、外国裁判所に管轄権がなく上記要件を満たさないため、遺言執行者の権限が日本では認められない可能性が高いとされています。この場合は、新たに日本の家庭裁判所で遺言執行者の選任申立てを行う必要があるでしょう。

外国で選任された遺言執行者が日本で権限を持つかどうかは、以下の要素がポイントとなります。

  1. 遺言執行者が外国裁判所の選任を受けたかどうか
  2. 外国裁判所の判決が日本で承認されるかどうか
  3. 相続人の本国法がどのように適用されるか

外国の裁判所で正式に選任された遺言執行者は、日本の裁判所で再度選任手続きを行わなくても、そのまま権限が認められる場合があります。ただし、適用される法律や国ごとの違いに注意が必要です。

国際相続をスムーズに進めるためには、専門家の助言を受けながら適切な手続きを取ることが重要です。

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