Last Updated on 2025年4月7日 by 渋田貴正
株式会社とは異なり、柔軟な運営が可能な合同会社(LLC)は、設立のしやすさや運営コストの低さから、年々設立の件数が増加しています。特に少人数での起業や親族・知人との共同事業に適しているため、共同で代表社員を務めるケースも少なくありません。しかしながら、「共同代表」という仕組みには、誤解やトラブルの元となる落とし穴も存在しますので注意が必要です。
合同会社における代表社員とは?
合同会社には「代表取締役」という概念はなく、「代表社員」が業務執行権限および会社の代表権を持ちます。社員全員が業務を執行する場合もあれば、特定の社員に代表権限を持たせることもできます。
この「代表社員」は1名でも複数名でも定めることが可能で、登記においても「代表社員○○」としてそれぞれ記載されます。複数名が代表社員となっている状態を、いわゆる「共同代表」といいます。
共同代表の法的な扱い
合同会社においては、共同代表といっても、「各代表社員が単独で代表権を行使できる」形が基本です。つまり、代表社員A・Bの両名が登記されていれば、AもBもそれぞれが会社を単独で代表できます。
ここで誤解されがちなのが、「共同代表=2人以上の代表者の同意が必要」という発想です。合同会社では、定款に明記しない限り、原則として各代表社員が単独で契約行為などを行えるため、一方の代表社員が把握していない想定外の取引や意思決定がなされる可能性があります。
定款による制限の必要性
例えば、「○○円を超える取引をする際には代表社員全員の同意が必要」「新規契約には全員の署名が必要」といったルールを設けたい場合、必ず定款にその旨を記載する必要があります。
こうした内部ルールが明文化されていない場合、たとえ信頼関係があるパートナー同士であっても、意図しない契約や資金の支出が発生し、トラブルの火種になることがあります。
合同会社の共同代表による実務上の注意点
- 銀行口座の管理
共同代表であっても、銀行口座の開設や資金移動に関しては、金融機関ごとの運用が異なります。「代表社員全員の同意が必要」としている銀行もあれば、「届出代表者のみでOK」とするところもあり、事前にしっかりと確認しておくことが大切です。
- 外部との契約
どちらか一方の代表社員が、もう一方に相談なく契約を締結した場合でも、相手方が善意無過失であれば、その契約は有効とされてしまいます。信頼関係だけでなく、具体的な業務分担や承認プロセスを文書化しておくことが、トラブル防止の鍵です。
上記の通り、合同会社では、定款に特別な定めをしない限り、各代表社員は単独で会社を代表できます。つまり、共同代表であっても、代表社員AもBも、それぞれが単独で契約行為などの法的効果を会社に帰属させることができます。
この仕組みにより、たとえば代表社員AがBに無断で外部と契約しても、その契約は原則として有効とされ、相手方が善意無過失であれば、会社はその契約に拘束されることになります(=定款による制限は第三者に対抗できない)。
そのため、「重要な取引は2人の合意で」といった内部ルールを定款に記載していても、取引先には主張できない点に注意が必要です。
- 解任・退任時のトラブル
代表社員の一方が退任を希望した際や、関係が悪化した際には、定款や社員間契約に基づいた解決が求められます。定款に「社員の退社には全員の同意が必要」などと記載されていると、円滑な退任が難しくなることもあります。設立時から「出口戦略」も想定した設計が重要です。
意見の対立による「空中分解」事例とそのリスク
共同代表制は、立ち上げ時には「意思決定を平等に行える」「信頼関係があるから大丈夫」という前提で始まることが多いですが、実際の運営では、時間の経過とともに以下のようなすれ違いが生じることがあります。
【事例1:経営方針の対立】
あるスタートアップ合同会社では、代表社員Aは「堅実経営」を望む一方で、代表社員Bは「積極的な資金調達と広告展開」を推進したいという意見対立が表面化。結果、BがAの承諾なく外部との広告契約を結んだことで信頼関係が破綻し、代表社員の1名が脱退を申し出ました。
【事例2:労働負担・利益配分の不公平感】
友人同士で始めた合同会社において、代表社員の一方が日常の業務を担う中、もう一方は別事業に専念し実質的に関与しない状態が継続。業務負担や報酬に対する不満から不信感が募り、「出資金を返してほしい」と言い出す事態に発展しました。
上記のような事案が発生した場合、以下のような問題が発生することが想定されます。
- 持分(出資金)の払戻し問題
合同会社は株式会社と異なり、原則として社員が退社する際には、その持分の払戻し(出資の返還)を受けられるとされています。
この点が、トラブル時に特に問題となります。
- 退社社員が「出資金を全額返してほしい」と要求
- 会社側に資金余力がない場合、経営が圧迫される
- 定款や契約書に払戻し方法・時期の定めがないと混乱
特にキャッシュフローが逼迫している会社にとっては、突然の持分払戻し請求は死活問題になり得ます。
- 残った代表者の負担増加と事業の継続困難
一方が抜けたことで、残った代表社員に業務負担が集中し、かつ人間関係の悪化で社員の再加入も難しくなることがあります。また、金融機関や取引先からの信用にも影響が出る可能性があります。
合同会社の共同代表制は、柔軟な運営を可能にする一方で、きちんと設計しないと将来のトラブルの原因になりかねません。
- 各代表社員は原則「単独代表」
- 意思決定ルールを明記するには定款の工夫が必要
- 外部契約や銀行手続きには事前の確認と調整が必要
- 社員間契約や業務規程で内部統制の仕組みを明文化
これらの視点を踏まえ、慎重に設計・運用していくことが、持続可能な会社経営への第一歩です。
当事務所では、司法書士と税理士のダブルライセンスによるワンストップ対応で、合同会社の設立から税務・法務のサポートまで一貫してお手伝いしております。
「共同代表にしたいけれど、何を決めておくべきか分からない」「将来のトラブルを防ぐために、定款や契約書をどう設計すればいいの?」といったご相談も歓迎です。
設立後も長く安心して経営できる体制づくりをサポートいたします。
まずはお気軽にお問い合わせください!

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。