Last Updated on 2025年4月3日 by 渋田貴正

一部の相続財産を認識していた場合でも熟慮期間は延ばせる?

相続が発生すると、相続人は「単純承認」「限定承認」「相続放棄」のいずれかを選ぶ必要があります。多くの方が一度は耳にしたことのある「相続放棄」ですが、その手続には厳しい期限があることをご存知でしょうか。原則として、相続開始を知ったときから3か月以内に手続きをしなければならない、というのが民法の定めるルールです。

民法では、相続放棄の期限を「自己のために相続があったことを知ったときから3か月以内」と定めています(民法915条)。この3か月を「熟慮期間」と呼び、相続人はこの間に相続財産の全容を調査し、どの選択を取るか判断することになります。

では、次のようなケースではどうなるのでしょうか。

【事例】
父が亡くなったことは1年前に知っていた。兄がすべての遺産を継ぐという認識で、手続きにも協力していた。しかし、2週間前に、父がかつて連帯保証していた高額の債務について、支払いを求める書面が届いた。

このように、一部の財産は知っていたものの、予想外の借金があとから判明した場合、「熟慮期間の起算点=3か月のスタート」を遅らせることができるかどうかが問題となります。

この問題に関しては、最高裁の判例もある一方で、判断が分かれているのが現状です。次の表に、限定説・非限定説という2つの考え方を整理してみましょう。

扱い 法律上の立場 内容の説明 支持される理由 注意点
「原則重視派」
(限定説)
相続放棄は例外的にしか
3か月を延長できない
「相続財産がまったくない」と誤解していた特別な場合のみ、3か月ルールの起算点を遅らせることができるという考え方 ・民法の条文(915条)は「財産がある・ない」ではなく「相続があったことを知ったとき」から起算と明記されている
・相続の判断は3か月あればできるという法の安定性を重視
・「借金があるかも」といった勘違いは、法的には保護されない(単なる動機の誤り)とする
・一部でも財産を知っていたら、基本的に放棄はできないという厳しい立場
・実際には債務が大きくても、手続きが間に合わないことがある
「柔軟対応派」
(非限定説)
状況に応じて3か月の起算点を
柔軟に判断すべき
一部の財産を知っていたとしても、「こんな借金があるなんて知らなかった」と後から重大な債務が判明した場合は、そこから3か月をカウントし直せるという考え方 ・相続の判断には正確な情報が必要で、借金の把握は難しいことも多い
・財産の一部を知っていても、重大な負債があるなら再検討の機会を与えるべき
・債権者側にも、早めに請求すべき責任がある
・すべてのケースで認められるわけではない
・家庭裁判所の判断に委ねられるため、結果にばらつきがあることも

「原則重視派(限定説)」は法律の条文や安定性を重視し、「柔軟対応派(非限定説)」は現実の状況や相続人の不利益に配慮する立場です。

実際の家庭裁判所の対応の傾向

家庭裁判所での運用においては、近年、非限定説に立って「3か月を過ぎていても相続放棄を受理する」例が増えてきています。たとえば、以下のようなケースでは、申述が受理された例があります。

  • 相続人がある程度の財産を知っていたが、高額の保証債務については全く知らなかった

  • 他の相続人がすでに放棄しており、申述人が多額の債務を一人で背負う可能性が出てきた

  • 債権者からの請求が非常に遅れて届いた

実際、裁判所によっては「実際に債務の金額が分かった時点が熟慮期間のスタートになる」と判断したものもあり、柔軟な運用がされることもあります。

しかしながら、最高裁は一貫して「相続財産の一部でも知っていたのであれば、熟慮期間は原則通り」という立場を取っており、全体として見ると、相続放棄が必ずしも認められるとは限らないのが実情です。

相続放棄の判断は急ぎつつ慎重に

相続において、「借金があるかもしれない」という不安は誰にでも起こりうるものです。だからこそ、少しでも心配があれば、まずは専門家にご相談ください。

また、相続放棄熟慮期間は「相続開始を知った日」ではなく、「相続財産や債務の存在を認識した日」が起算点となる可能性もあるため、状況によってはまだ間に合うこともあります。

相続放棄の申述をすべきか迷っている方、相続開始から3か月以上経ってしまっていて不安な方は、あきらめる前に一度ご相談ください。状況によっては、まだ相続放棄が認められる可能性もあります。