Last Updated on 2025年4月28日 by 渋田貴正
相続手続きを進める中で、「やっぱり遺産分割協議をやり直したい」という場面は意外とよくあります。
しかし、一度成立した遺産分割協議を、一部の相続人だけの意思でやり直すことはできるのでしょうか?
結論から申し上げますと、原則として、一部の相続人だけではやり直しできません。ただし、無効や取消しに該当する場合には例外的にやり直しが可能です。
原則:一部相続人の意思だけでは遺産分割協議はやり直しできない
まず、基本的なルールから確認しましょう。
一度成立した遺産分割協議は、民法909条により、相続開始時に遡って財産が各相続人に帰属したとみなされます。
(遺産の分割の効力)
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そのため、
- 協議が成立した時点で遺産分割協議による遺産の分配という法律関係が確定する
- 原則として一方的にやり直すことはできない
という扱いになります。
また、最高裁も次のように判断しています。
事案 | 判決の要旨 |
遺産分割協議後に債務不履行があった場合 | 債務不履行を理由に遺産分割協議自体を解除することはできない |
つまり、「代償金を払わない」「扶養義務を果たさない」などがあっても、遺産分割協議そのものを民法541条の法定解除によって取り消すことはできないのです。
(催告による解除)
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上記のようなそれらしい理由があっても開場できないくらいなので、単に「一度ハンコを押したけどやっぱり納得いかない」といった理由で一度成立した遺産分割協議のやり直しを一方的に求めることはできないということです。それだけ遺産分割協議書に署名やハンコを押すということは重要なことです。
共同相続人全員が合意すれば「合意解除」でやり直し可能
一方で、共同相続人全員の合意があれば、過去の遺産分割協議を解除し、新たな協議を行うことが認められています。
ケース | 要件 | 可能か? |
相続人の一部だけでやり直し | 他の相続人が同意していない | ❌不可 |
相続人全員が合意してやり直し | 全員一致 | ⭕可能 |
ただし、この場合でも登記の抹消や税務申告の修正が必要になるため、慎重な対応が求められます。
無効や取消しに該当する場合には一部でもやり直し可能なことがある
さらに、特別な事情がある場合には、「無効」や「取消し」として遺産分割協議自体をなかったことにできる可能性もあります。
類型 | 内容 | 根拠条文 | 例 |
無効 | 法律上最初から成立していない | 民法90条(公序良俗違反)、民法95条(錯誤)など | 詐欺により内容を偽られた協議 |
取消し | いったん成立したが後から取り消せる | 民法96条(詐欺・脅迫)、民法94条2項(虚偽表示) | 脅迫されて同意した協議 |
無効・取消しが認められる例
- 明らかに相続人の一部を意図的に除外して行った協議
- 説明内容に重大な虚偽があった
- 脅迫や詐欺により同意を強制された
このような場合には、必ずしも全員の合意がなくても遺産分割協議をやり直せる可能性が出てきます。
もっとも、これを主張するには裁判手続きが必要になることもあるため、専門家への相談が不可欠です。
遺産分割協議のやり直しと登記手続きの関係
すでに遺産分割協議に基づき相続登記がされている場合、やり直しには以下の作業が必要です。
- 【合意解除の場合】錯誤による登記の抹消申請
- 【無効・取消しの場合】無効原因または取消原因に基づく登記の抹消申請
いずれも「登記原因証明情報」として、新たな遺産分割協議書や裁判所の判決正本等が求められます。
また、登録免許税(原則、不動産価額×0.4%)も別途発生します。
ただし、一定の場合には「更正登記」が認められる可能性もあります。
遺産分割協議のやり直しと相続税の関係
遺産分割協議のやり直しによって、相続税にも大きな影響が出ることがあります。
- 既に相続税の申告・納付が済んでいる場合
→ 新たな分割内容に基づき、修正申告や更正の請求が必要です。 - 小規模宅地等の特例適用地が変わった場合
→ 特例が使えなくなり、税額が増えるリスクがあります。
ケース | 影響 | 注意点 |
小規模宅地の特例対象が変わった | 適用できず税額が大幅増加 | 適用要件の再確認必須 |
配偶者控除の配分変更 | 控除額が変わり税額に影響 | 再申告のタイミングに注意 |
特に小規模宅地の特例や配偶者控除は、やり直しで無効になるリスクが高いため慎重な検討が必要です。
最後に整理します。
状況 | やり直し可能か? | 注意点 |
一部相続人のみの希望 | ❌不可 | 全員合意が必要 |
全員の合意あり | ⭕可能 | 登記・税務手続きが必要 |
無効・取消し原因あり | ⭕可能 | 裁判などが必要なことも |
遺産分割協議は、一度成立すると簡単にはやり直しできませんが、全員の合意や無効・取消し原因があればやり直しも可能です。
ただし、やり直す場合には、登記のやり直しや相続税の修正といった負担も生じます。
やり直しが本当に可能なのか?
やり直すとどんな影響が出るのか?
こうしたお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度ご相談ください。
当事務所では、司法書士・税理士のダブルライセンスで、相続登記と税務の両面からトータルサポートいたします!

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。